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梅雨のある日 [思うこと]

 
 連日蒸し暑い日が続いています。気分が滅入る時があります。
 
 今日は内容が非常に重いのですが梅雨の日のある出来事を書きます。

 梅雨の時期の話ですが、私が大学1年の時クラスで歓迎ボーリング大会が予定されていました。私が幹事となって、クラスの学生(約30名)に声をかけて参加を皆に促したのです。
 
 その中に1人ぽつんと浮いた学生がいました。S君という男子学生で必ず1時間目は遅れて、そして次の授業は居眠り、、という学生がいたのです。クラスではこの話が有名となって、何故か誰も声をかけずに彼とは距離を置いたままの状態が続いたのでした。彼は1人クラスで浮いていたのです。

 私はいちおうS君にも声をかけようとしました。当然クラスの一員ですから無視はできません。周囲の友人らは「やめた方がいいのでは?」と言いましたが、そういう訳にはいきません。授業が終わると急いで私はこのクラス企画について彼に参加を促したのでした。するとS君は喜んで「僕が本当に行ってもいいの?」と言うのです。私は「もちろん、大丈夫。」と言って彼を参加者リストに入れたのです。あの時のS君の顔の表情は喜びがぱあっと表れていました。察するによほど嬉しかったのだと思います。
 
 その日の夜、S君から「必ず行くよ。、、」と確認の電話があったのです。ちょうどその週末の日曜日にやる予定でした。電話で短い会話でしたがS君の声は明るくはずんでいました。私は声を聞いて彼の印象が変わったのです。話してみると彼はいい人だなと。人は見かけによらないものだと思いました。人を見かけだけで判断してはいけない。まずは会話をしてみるのが大事なのです。会話をしながらその人の人柄、考え方を知ってゆくのです。

  それから数日後の夜、私が自宅に戻ると、母から「Eさんという人から電話、何だか切羽詰まった声だったよ。」と言われたのです。
  
  「Eさん?」私はそのような人を聞いた事もないし知っていませんでした。なぜそんな人が急に私に電話をかけてくるのか、とりあえず電話をかけました。

 するとEさんが出て、「S君は事故で亡くなりました・・・」の声!私は何も言えずただ受話器を握ったままでした。考えてみると確かにその日の授業にS君はいなかったのです。
 
 EさんはS君の親友で同じアパートの仲間でした。S君は地方から出てきて1人暮らしで、新聞配達のアルバイトをして学費を稼いでいたそうです。なぜ授業で遅れて居眠りするのか解りました。そして家の事情で両親も親類もいないとか。今回のボーリングはとても楽しみにしていて、そのことをEさんに嬉しそうに話していたとか。「僕に声をかけてくれたのは嬉しいよ。」とS君は言っていました。事故の日は新聞配達の帰りでスピードの出しすぎで事故を起こしたそうです。彼の持っていた血だらけの手帳からEさんへ連絡があって、彼が病院へかけつけた時はもうすでに亡くなっていたそうです。親しい人から誰も看取られることなく息を引き取ったのです。
 
 その後EさんはS君の部屋を開けた時、テーブルに私の電話番号が書かれたメモがあるのを発見。急いで電話をかけたそうなのです。私は今までの経過を聞いて無言の状態でした。こんな事ってあるのでしょうか? 神様はなぜこんなひどい運命を彼に投げかけたのか・・・。

 後日彼の告別式に行きました。ボーリングは急遽中止となって有志で参列しました。ところが有志といっても、私、友人、クラスの先生、、たったの5人でした。5人なのです。後の学生はいろいろな都合で行けなかったのです。告別式といってもそれは本当に悲しい式でした。梅雨の日でした。式場の寺に入り、案内された部屋へ私達は入ったのですがそこで目にした光景とは、うつむいて涙を流しているEさんの姿、机の上には箱、庭にアジサイの花。S君はこんな姿となって私達の前に現れたのです。信じられませんでした。見ていて非常に辛かったです。電話の明るいS君の声を思い出したとたん、やりきれない気持ちが心の中で起こりました。もう箱の姿になってしまったのですから。私は今までに何人か人の死を見てきましたがこれほどまでに胸がしめつけられる辛く苦しい状況に立たされたのは初めてでした。

  いつの間にか、彼は「箱」になってしまったのですから、、、。

 その後式が済んで、お坊さんとEさんに挨拶をして私達は失礼しました。帰宅の途中で傘を差しながら私は思ったのです。「S君はこんな姿になってしまった、、、何故だろう? 人生はこんなものなのか、、でもあの時自分が声をかけたのは良かったのではないか、、、たぶん嬉しかったのだろう、どうか別の世界で安らかに眠ってほしい、、。」

 悲しみを表すような激しい雨空。傘を差しても私に雨がかかってきます。降りしきる雨を受けながら私は帰宅しました。

 


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コメント 10

モバツアshinco

なんだか、とても悲しいお話ですね。
のび太さんの優しさと、S君のその時の嬉しさが伝わってきます。
運命とはこんなものなんでしょうか。
by モバツアshinco (2006-07-18 07:18) 

*Takako*

むねが熱くなりました。学費などの為に新聞配達されて
いたのでしょうね。ボーリングも、楽しみだっただろうに・・
人との出会いは、一期一会といいますが一瞬一瞬を
大切にしないといけませんね。
by *Takako* (2006-07-18 11:13) 

Hedef

のび太さん、考え深いお話ですね。
 いろんなことで「この人はこういう人だ」と決め付けてしまうことってあります。 だけど、本当はそうではないのかもしれない。

 Sさん自身も、人との交流をあきらめてしまっている部分があったのでしょう。 のび太さんのお誘いをそれほど喜ばれていた様子から、きっかけを待っていらっしゃったのですね。

 突然の事故…寒気がしました。人生とは本当に先の見えないものです。
 だからこそ、今日1日を大切に、感謝する気持ちを忘れずにいたいと思います。(愚痴が多くて、イライラ気味の私ですが)
by Hedef (2006-07-18 14:10) 

のび太

shincoさん、運命とは本当にこういうものですね。
あの時に声をかけたことが良かったかなと考えています。
by のび太 (2006-07-18 19:56) 

のび太

Takakoさん、この時は人との出会いとは何だったのか、、?を感じました。
一瞬一瞬大切にしたいですね。
by のび太 (2006-07-18 20:03) 

のび太

Hedefさん、人生とは先がわかりませんね。だからこそ日々を大切にしたいものです。出会いを大切にしたいと思います。
お仕事忙しいようですがお体を大切にしてください。
by のび太 (2006-07-18 20:07) 

通訳

私も今日大学時代からの
友人のお通夜に行ってきたので、
感慨深いお話でした。
でも、きっとそのS君は最後は
暖かい気持ちでのび太さんに感謝しながら
行かれたと思いますよ。
でも、なぜ良い人ほど、苦労している人ほど
早く亡くなるんでしょうね・・・。
by 通訳 (2006-07-18 22:53) 

うさこ

のび太さん こんにちは
なんともやりきれない思いで最後まで読ませて頂きました。
涙が止まりません。
どうしてこんなにも運命とは残酷なものなのかと思います。
最後に自分という存在を受け入れてくれたのび太さんに
出会ったことは、Sさんにとって一番大切な思い出として
残ったことと思います。
あの世に旅立つときに持っていけるものは心だけですから、
きっと大切な宝物になっていると思います。
長くなりましたが、Sさんのご冥福をお祈りします。
by うさこ (2006-07-19 08:20) 

のび太

通訳さん、それはとても大変でしたね。ご冥福をお祈りいたします。
人の一生は、さまざまです。与えられた日々、一日一日に感謝したいです。
by のび太 (2006-07-19 16:20) 

のび太

うさこさん、梅雨の時になると決まってこの出来事を思い出します。
友人に声をかけたことが一番良かったのでは、、と考えています。
命について考えさせられますね。
by のび太 (2006-07-19 16:25) 

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